マーケティングリサーチに取り組んでいるのに、「本当に消費者が求めているものを掴めているのか」と不安を感じていませんか。
アンケートや定性調査を丁寧に実施しても、製品開発や施策の方向性が消費者の実態とずれてしまった経験を持つ担当者は少なくありません。
その原因の多くは、調査手法の「質」ではありません。従来の手法には、どれだけ丁寧に実施しても構造的に取得できない情報がある、という根本的な限界があります。
この記事では、マーケティングリサーチの基本定義・種類・進め方を体系的に整理しながら、その限界を超える「行動データ分析」という新しいアプローチについても解説します。
この記事を読むことで、以下の5点が理解できます。
- マーケティングリサーチの定義と、マーケットリサーチ(市場調査)との違い
- マーケティングリサーチの目的とメリット
- 定量調査・定性調査・行動データ分析の代表的な手法と使い分け
- マーケティングリサーチの標準的な進め方(6ステップ)
- 行動データを活用した最新アプローチと、会社・ツール選定のポイント
マーケティングリサーチとは何か
マーケティングリサーチとは、消費者の意図・行動・課題を把握し、マーケティング施策の意思決定を支援するための体系的なプロセスです。製品・価格・流通・プロモーションといったマーケティング活動全体の判断材料を提供します。
製品開発・価格設定・広告メッセージ設計・販売戦略など、あらゆるマーケティング施策は「消費者が何を求めているか」を起点に設計されます。その起点となる情報を収集・分析・解釈する一連の活動が、マーケティングリサーチです。
特定の職能だけが行うものではありません。経営層が市場機会を特定するときも、R&D担当者が製品コンセプトを決めるときも、営業担当者が顧客への訴求軸を設定するときも、広告代理店が訴求メッセージを設計するときも、その根拠となる消費者理解を得るプロセスがマーケティングリサーチです。
「なんとなく消費者のことはわかっている」という感覚は、しばしば担当者個人の経験則や限られた接点から形成されます。マーケティングリサーチは、その感覚を客観的なデータに置き換えることで、意思決定の失敗リスクを減らす実務行為です。
マーケットリサーチ(市場調査)との違い
マーケットリサーチ(市場調査)という言葉も聞いたことがあるかもしれません。このふたつは混同されやすい用語ですが、対象範囲が異なります。結論から言えば、マーケットリサーチはマーケティングリサーチの一部です。
| 項目 | マーケットリサーチ(市場調査) | マーケティングリサーチ |
|---|---|---|
| 主な対象 | 市場規模・成長率・競合・業界トレンド | 4P(製品・価格・流通・プロモーション)全体と消費者行動 |
| 範囲 | 市場環境に特化 | 市場環境+顧客行動・広告効果・ブランド評価など |
| 実施タイミング | 事業企画・参入検討フェーズ | 企画から実施・効果測定まで全フェーズ |
| 関係性 | マーケティングリサーチに含まれる | マーケットリサーチを含む上位概念 |
要約すると、「この市場は成長しているか、競合はどこか」を知りたければマーケットリサーチ。「消費者はこの製品に何を期待し、何に不満を持っているか」「広告効果はどうか」を知りたければマーケティングリサーチ、という使い分けが基本です。
マーケティングリサーチの目的とメリット
マーケティングリサーチの主な目的は、顧客理解の精度向上・意思決定リスクの低減・競争優位の確立・施策の最適化の4つです。これらを通じて、感覚や経験則ではなく客観的データに基づくマーケティングを実現できます。

マーケティングリサーチを実施することで得られる代表的なメリットを4つに整理します。
① 顧客ニーズの深い理解
多様化する顧客ニーズや、顧客自身も自覚していない潜在ニーズをデータに基づいて把握できます。これにより、顧客が本当に求めている商品・サービスを設計でき、顧客満足度やロイヤルティの向上につながります。
顧客ニーズの捉え方の基本については 消費者ニーズとは何か もあわせて参考にしてください。
② 意思決定リスクの低減
新商品開発・新規市場参入・大型プロモーション投資には常にリスクが伴います。事前にリサーチを行うことで、市場ニーズや競合状況を把握し、無駄な投資を避けられます。「リニューアル後の売上が想定の半分だった」というような失敗を、事前に防げる可能性が高まります。
③ 競争優位性の確立
競合他社の動きや市場環境の変化を客観的に把握できれば、自社の強みと弱みを冷静に評価できます。その分析結果をもとに差別化された商品開発やマーケティング戦略を実施することで、競争優位を築けます。
④ マーケティング施策の最適化
広告効果の測定・顧客の購買行動分析・ブランド認知度の継続把握などを通じて、施策の費用対効果を高められます。「どの媒体に予算を集中させるか」「どのメッセージが響くか」といった判断を、データに基づいて行えるようになります。
マーケティングリサーチの主要な3種類と代表的な手法
マーケティングリサーチは「定量調査」「定性調査」「行動データ分析」の3種類に整理できます。それぞれが取得できる情報の性質が異なるため、目的に応じて単独または組み合わせて活用します。

| 種類 | 主な手法 | 取得できる情報 | 主な限界 |
|---|---|---|---|
| 定量調査 | ネットリサーチ・CLT・HUT・郵送調査・SNS調査 | 統計的傾向と規模感 | 設計した選択肢の範囲内に限定される |
| 定性調査 | デプスインタビュー・FGI・観察法・覆面調査 | 「なぜそう感じるか」の深い理解 | 少数サンプル・コストと時間がかかる |
| 行動データ分析 | 検索行動・購買履歴・Webログの分析 | 発話バイアスのない意図と行動の連鎖 | データの解釈に専門性が必要 |
3つの手法は対立するものではなく、目的に応じて補完的に組み合わせるのが実務的です。
定量調査の代表手法
数値データを集めて全体の傾向や相関を統計的に把握する手法です。「どれくらいの割合の消費者がこの課題を感じているか」という規模感を数値で答えられます。
- ネットリサーチ(インターネット調査):Web上でアンケートを配信し、短期間で大量回答を収集する手法。最も一般的でコストも比較的低い
- CLT(セントラルロケーションテスト/会場調査):会場に対象者を集めて製品試用やパッケージ評価を行う手法
- HUT(ホームユーステスト):対象者の自宅で製品を一定期間使用してもらい評価を得る手法
- 郵送調査・電話調査・街頭調査:従来型の調査手法。特定の年齢層・地域に強い
- SNS調査:SNS上の投稿・反応を収集し、ブランド評価や話題量を定量化する手法。リアルタイム性に強み
定性調査の代表手法
人の意見や感情の「なぜ」を深掘りし、数値では見えない価値観・動機・課題を明らかにする手法です。
- デプスインタビュー:調査員と対象者が1対1で行う詳細インタビュー。深層心理や個人的体験を聞き取れる
- FGI(フォーカスグループインタビュー):複数人の対象者を集めた座談会形式の調査。参加者の相互作用から発想が広がる
- 観察法(エスノグラフィー):対象者の行動を実地で観察する手法。発話されないニーズを発見できる
- 覆面調査(ミステリーショッパー):調査員が一般客として店舗を利用し、サービス品質を評価する手法
行動データ分析
消費者が目的を持って能動的に行動した記録を分析する手法です。検索行動・購買履歴・Webログなどがデータソースになります。
消費者は「見られている」意識なく行動しているため、回答バイアスが存在しません。また、調査設計者があらかじめ「何を調べるか」を決める必要がなく、消費者の行動そのものがデータになる点が、定量・定性調査との本質的な違いです。
近年は、AIや専用ツールの普及により、専門的なデータサイエンスの知識がなくても行動データ分析を実施できる環境が整いつつあります。
リサーチ手法全般のさらに詳しい整理については リサーチとは|基本手法と進め方 も参考にしてください。
マーケティングリサーチの進め方|標準的な6ステップ
マーケティングリサーチは「目的設定→仮説構築→調査企画→実査→集計・分析→施策接続」の6ステップで進めます。最初の目的設定の精度が、最終的な意思決定の質を決めます。
「消費者のニーズを理解する」といった曖昧な目標では、収集すべきデータや分析の方向性が定まりません。調査対象・課題・粒度を具体化し、意思決定に使えるリサーチ目的へ落とし込むことが出発点です。検索クエリの確認は、消費者が実際にどのような言葉で課題を捉えているかを把握する手がかりになります。
目的が定まったら、「○○なのは△△が理由ではないか」という形で仮説を整理します。仮説があることで、調査項目の絞り込み、結果の解釈、施策への接続がスムーズになります。完璧である必要はなく、偏りや漏れ・ダブりを確認しながら3〜5個程度に整理します。
目的と仮説に基づき、調査手法・対象者・調査項目を設計します。深い動機や背景を把握したい場合は定性調査、傾向の規模感を確認したい場合は定量調査、未認知ニーズや意思決定プロセスを捉えたい場合は行動データ分析が適しています。実務では複数の手法を組み合わせるケースも多くなります。
調査設計に基づき、実際にデータを収集します。アンケートであれば配信・回収、インタビューであれば実施、行動データ分析であればキーワードや期間を指定してデータを呼び出します。設計どおりに進行しているか、回答品質や回収数に問題がないかを継続的に確認することが重要です。
収集したデータを集計・分析し、仮説を検証します。信頼性のある分析にするためには、「データが示している事実」と「調査者による解釈」を分けて記述することが重要です。リスニングマインドでは、各ファインダー機能に搭載された専用AIエージェントを活用し、分析結果からその場でインサイトを読み取ることができます。
分析結果を、製品仕様・価格・訴求軸・媒体選定などの具体的な意思決定に接続します。リサーチが報告書作成で終わらないよう、誰が結果を使うのか、どの判断に直結させるのか、施策実施後にどう検証するのかを事前に決めておくことが重要です。実施後の結果を再びリサーチに反映することで、消費者理解の精度を継続的に高められます。
実務で迷わないよう、標準的な進め方を6ステップに整理します。
ステップ1:目的設定 ― 何を明らかにしたいかを具体化する

「消費者のニーズを理解する」という曖昧な目標では、収集すべきデータが定まらず、分析結果が意思決定に使えません。調査対象・課題・粒度を具体化することが出発点です。
- 【曖昧な例】消費者のニーズを理解したい
- 【具体的な例】日本市場における20代女性が、製品カテゴリーXに対して最も強く感じている不満は何か
【ヒント】調査対象ブランドや製品カテゴリーについて、消費者がどのような検索クエリを用いているかを確認することで、目的設定の手がかりが得られます。リスニングマインドのクエリファインダーでは、指定した名称を含む検索語彙を検索量のボリューム順で確認できます。<クエリファインダーの機能紹介>
ステップ2:仮説構築 ― 検証すべき仮説を立てる
目的が定まったら、「○○なのは△△が理由ではないか」という仮説を立てます。仮説があることで、調査項目の絞り込み、調査結果の解釈、施策への接続がスムーズになります。
仮説は完璧である必要はありません。漠然としていないか、偏っていないか、漏れやダブりがないかを確認しながら、3〜5個程度の仮説を整理します。
ステップ3:調査企画 ― 手法・対象・項目を決める
目的と仮説が定まったら、調査企画を組みます。検討項目は次の3つです。
| 明らかにしたいこと | 適した手法 |
|---|---|
| 課題の深い動機・背景 | 定性調査(デプスインタビュー・FGIなど) |
| 傾向の規模感・統計的確認 | 定量調査(ネットリサーチ・HUTなど) |
| 消費者が気づいていないニーズ・意思決定プロセス | 行動データ分析 |
要約すると、深さを取りたいときは定性、広さを取りたいときは定量、未認知ニーズや経路を取りたいときは行動データ分析が適しています。実務上は複数の手法を組み合わせるケースも多くなります。
ステップ4:実査 ― データを収集する
設計に基づき、実際にデータを収集します。アンケートであれば配信・回収、インタビューであれば実施、行動データ分析であればキーワードや期間を指定してデータを呼び出します。
実査段階で重要なのは「設計どおりに実施できているか」を継続的に確認することです。回答品質の低いサンプルが混入していないか、想定回収数に達しているか、進捗管理が品質を左右します。
ステップ5:集計・分析 ― データから示唆を引き出す
収集したデータを集計・分析し、仮説を検証します。「データが示していること」と「調査者の解釈」を分離して記述することが、分析の信頼性を保つうえで重要です。

【ヒント】一般的には、入手したデータをデータサイエンティストが事前分析し、こうした結果に見えてきた傾向性をもとにアナリストが解釈を加えて読み取りを行います。これらをまとめたものがレポートとなります。リスニングマインドであれば、各ファインダー機能に専用のAIエージェントが搭載されており、分析結果について、その場でインサイトを読み取ることが可能です。
ステップ6:施策接続 ― 結果を意思決定に活かす
分析結果を実際の意思決定に接続します。リサーチの成果が「報告書を作って終わり」にならないよう、次の3点を事前に決めておくと効果的です。
- 誰がこのリサーチ結果を使って意思決定するのか
- どの判断に直結させるのか(製品仕様・価格・訴求軸・媒体選定など)
- 施策実施後の検証はどう行うのか
施策実施後の結果をリサーチにフィードバックするサイクルを設けることで、消費者理解の精度が継続的に向上します。
施策設計の前提となる顧客理解の整理については カスタマージャーニーマップとは も参考にしてください。
従来のマーケティングリサーチが抱える構造的な限界
アンケートやインタビューは強力な調査手法ですが、「消費者が発話できないニーズ」は構造的に取得できません。この限界を理解することが、より精度の高い消費者理解への第一歩です。

アンケートの限界:設計した範囲の外は見えない
アンケートは、調査設計者があらかじめ「何を聞くか」を決めた選択肢の範囲内でしか情報を収集できません。消費者自身が言語化できていない潜在的な課題や、設計者が想定していなかったニーズは、調査の設計段階で意図せず排除されています。
インタビューの限界:規模感がわからない
インタビューは深い洞察を得られる一方で、サンプル数が限られます。数名・数十名の声から得た傾向が、実際の市場においてどの程度の規模を持つ課題なのかを判断することは、定性調査だけでは困難です。
主な職能ごとにこの限界が現れる場面を整理すると、次のようになります。
- 商品企画・R&D担当者:「どのニーズが市場として大きいか」をサンプル数の少ない定性調査では定量的に判断できない
- 経営層・事業戦略担当者:消費者が言語化できていない潜在ニーズは、アンケートの選択肢に現れない
- セールスマネージャー:顧客が商談で表に出す懸念と、本当に気にしていることが必ずしも一致しない
- ストラテジックプランナー:セグメントの切り口を設計する段階で、その切り口自体が担当者の主観に依存してしまう
これらはいずれも、調査手法の質の問題ではありません。「聞けることしか聞けない」という、設計依存の構造的な制約です。
この限界を超えるために注目されているのが、消費者が能動的に起こした行動の記録から意図を読み取る「行動データ分析」というアプローチです。
行動データ分析で、マーケティングリサーチの5つの主要テーマが変わる
行動データ分析を取り入れることで、マーケティングリサーチは「ニーズ把握」から「意思決定プロセスの解明」へ、「キーワード調査」から「カスタマージャーニー調査」へと進化します。
行動データを活用すると、マーケティングリサーチはどのように変わるのか。従来手法との比較で、5つの観点から整理します。

① ニーズの把握から「意思決定プロセスの解明」へ
従来のリサーチでは「消費者は何を重視しますか」と聞くことで、ニーズを掴もうとします。しかし行動データでは、消費者が実際にたどった検索の経路(パス)などのデータから分析を行います。
- どの課題から情報収集を始めたのか
- 何を比較しながら検討したのか
- どこで競合に流れたのか
- どの不安や疑問が意思決定を止めたのか

【ヒント】検索の経路をみると、消費者が自分の目的を達成するためにどのように検索語を変化させていったのか、その経緯を確認することができます。このことで、その行動から意図の流れを知ることができます。リスニングマインドのパスファインダーであれば、こうした経路の変化を表示させることができます。<パスファインダーの機能紹介>
「消費者は何と言っているか」から、「消費者がどんな順序で理解し、迷い、比較し、決めるか」へ。これが行動データ分析がもたらす最大の視点の転換です。
② キーワード調査から「カスタマージャーニー調査」へ
通常の検索データ分析は、キーワードを点で見ます。しかし消費者の行動記録は、その変化を経路として見ることができます。結果として、検索行動ベースのカスタマージャーニー分析が実現します。

【ヒント】消費者の関心は購買に至るまでのプロセスの中で変化します。こうした変化を捉えることで、認知に至る道筋や、競合へブリッジするキッカケなど、重要なインサイトを得ることができます。リスニングマインドのジャーニーファインダーでは、こうした変化の様子を分析できます。<ジャーニーファインダーの機能紹介>
ある商材であれば、漠然課題の認知→解決策の探索→商品カテゴリーの学習→比較検討→評判確認→購入直前の不安解消という流れが、行動の連なりとして見えてきます。
リサーチの主題が「どんなキーワードが伸びているか」から「顧客はどんな順序で理解し、迷い、比較し、決めるのか」へと変わります。
③ シェア比較から「スイッチ理由分析」へ
通常の競合調査では認知率・好意度・シェアを見ますが、これだけでは「なぜ競合に流れたか」がわかりにくいことが多いです。行動データを使うと、消費者が自社検討から競合検討へ移る途中で何が起きていたかを追跡できます。

【ヒント】自社ブランドから競合ブランドに到達するまでに消費者がどのような検索語を用いていたかを確認することで、競合への流出ポイントを特定できます。こうしたブランド間の検索行動の比較分析については、キーワードギャップ機能の紹介も参考にしてください。
- どんな比較軸が現れたか
- どんな不安が発生したか
- どの条件で競合が優位になったか
競合分析が「競合が強いか弱いか」ではなく、「どのジョブで競合が選ばれ、どの検討局面で自社が負けるか」を特定する分析へと進化します。
④ 属性セグメントから「ジョブ指向ペルソナ」へ
従来の年齢・性別・年収といった属性軸のセグメンテーションに対し、行動データは「何を達成したくて動いている人たちか」というジョブ軸でのセグメンテーションを可能にします。

【ヒント】これまで消費者の類型化を手掛かりにターゲット分類を行っていましたが、行動データを直接分析できる現代では、どのように行動したのかという情報をもとに消費者の果たしたい目的(ジョブ)ごとの集団を捉えることができます。リスニングマインドのクラスターファインダーでは、こうしたジョブベースのペルソナ把握で市場の関心のバリエーションを分類できます。<クラスターファインダーの機能紹介>
例えば同じ商品カテゴリでも、「失敗回避したい層」「時短したい層」「初心者で学習負荷を下げたい層」「高機能重視層」「他製品から乗り換え検討中の層」では、求める訴求がまったく異なります。行動データは、こうした集団を主観ではなく実際の探索行動データから定量的に見つけ出します。
⑤ 属人的なひらめきから「再現可能なインサイト抽出」へ
従来の定性調査では、優れたモデレーターやプランナーがインタビューから示唆を抜く場面が多く、どうしても属人性がありました。行動データ分析では、パスの集団化・語彙の特徴抽出・AIによる要約・元データへの接続による検証が可能なため、インサイト抽出が比較的再現しやすくなります。

【ヒント】消費者がいつ・どのカテゴリーを想起したかを把握することで、購買検討の入り口(カテゴリーエントリーポイント/CEP)を特定できます。CEP分析についてはCEPファインダーの機能紹介もあわせてご確認ください。
リサーチの成果物が「なんとなくそれっぽい洞察」ではなく、「どの行動群から・どの特徴語彙を根拠に・どの課題仮説を立てたのか」という形で説明可能になります。
職能別・行動データを活用した具体的な活用場面
行動データ分析は、経営・開発・営業・広告という異なる職能において、それぞれ異なる意思決定の根拠として機能します。

経営層・事業戦略担当者:市場機会の特定とグローバル戦略
ロボット掃除機カテゴリーにおける日米の消費者行動データを比較すると、明確な違いが浮かび上がります。日本の消費者は機能的な完成度への不満が複数の課題にわたって均等に分布している一方、アメリカの消費者はモップ機能・自動ゴミ収集機能といった特定の課題に行動が集中しています。
この差異から、日本市場では「総合的な完成度の向上」が、アメリカ市場では「完全自動化」と「水拭き機能の実用性」が競争の焦点だと読み取れます。経営層はこのデータを根拠に、開発投資の優先順位を地域別に設定できます。
R&D担当者・商品企画担当者:開発コンセプトの根拠づけ
日本の行動データでは「水拭き機能・衛生/悪臭」という課題が急速に拡大しています。消費者の行動から浮かび上がるのは「水拭き後の雑菌や臭いへの不安」という具体的な課題であり、これが「除菌機能の搭載」「カビにくい素材の採用」「自動乾燥機能の設計」という開発コンセプトに直接転換できます。「水拭き機能を改善しよう」という曖昧な方向性より、開発の失敗リスクを大きく低減します。
セールスマネージャー:地域・セグメント別の訴求軸の設定
日本の顧客には衛生面への不安を解消する訴求が響き、アメリカの顧客には耐久性・信頼性への言及(故障・充電トラブルに関する検索行動の伸びが顕著)が有効です。同じ製品でも、顧客の行動データが示す関心の焦点に合わせて訴求軸を変えることで、成約率の向上につながります。
ストラテジックプランナー(広告代理店):セグメント別メッセージの設計
「衛生への不安」を抱えるセグメントには「水拭き後の雑菌まで、しっかり対処します」という訴求が有効であり、「信頼性への不安」を抱えるセグメントには「壊れない、止まらない。業界最長の保証期間」という軸が響きます。行動データは、こうしたセグメント間の差異を主観ではなく数値で把握する手段になります。
行動データから消費者の本音を引き出す視点については 消費者インサイト・行動分析 も参考にしてください。
マーケティングリサーチ会社・ツールを選ぶときの3つの視点
マーケティングリサーチを外部に依頼する場合は「目的への適合性」「保有データの種類」「分析・レポーティング体制」の3点で選定します。会社によって得意な手法・対象市場が大きく異なるため、目的に応じた選択が重要です。
マーケティングリサーチを進める際は、自社で実施する方法と、調査会社・ツールに依頼する方法があります。外部活用を検討する場合、次の3つの視点で選定すると失敗が少なくなります。
視点1:目的への適合性
「定量調査が中心の会社」「定性調査に強い会社」「行動データ分析を専門とするツール」など、各社・各ツールには得意領域があります。自社の調査目的(深さを取りたいのか、規模感を取りたいのか、未認知ニーズを取りたいのか)に合った選定が重要です。
「とりあえず大手」ではなく、自社の課題に合う得意領域を持つ会社を選ぶことで、コストパフォーマンスが大きく変わります。
視点2:保有データ・パネルの種類
調査会社は固有のモニターパネル(調査協力者のネットワーク)を保有しています。BtoC向け・BtoB向け・特定業界向けなど、パネルの内訳によって到達できる対象者が異なります。
行動データ分析を行うツールであれば、対象とする市場・言語・データ量を確認します。海外市場をリサーチする場合は、対象国の行動データを扱える会社・ツールであるかが選定の決め手になります。
行動データの分析に必要なデータ種別については インテントデータとは も参考にしてください。
視点3:分析・レポーティング体制
データを「取る」だけでなく、「読み解く」体制があるかも重要な視点です。生データだけ渡されても、社内に分析者がいなければ意思決定に活かせません。
最近は、AIを活用したレポーティング機能を持つツールも増えており、専門知識の少ない担当者でもインサイト抽出が可能になりつつあります。
こうした行動データ分析を、誰でも実践できる環境 ― ListeningMind(リスニングマインド)
ListeningMindは、専門的なデータ分析の知識がない担当者でも、検索行動データに基づいたマーケティングリサーチを実施できるツールです。検索パスの可視化、ジョブ指向ペルソナの定義、海外市場の分析までを一貫して行えます。
ここまで解説してきた行動データ分析は、「理論としては理解できるが、実際に自分で取り組めるのか」と感じる方も多いはずです。大規模な消費者行動データの収集・分析には、従来であれば専門的な知識と多大なコストが必要でした。
この状況を変えるインフラとして開発されたのが、ListeningMind(リスニングマインド)です。
| リサーチ項目 | 従来の手法 | ListeningMind |
|---|---|---|
| データソース | アンケート(記憶・発話) | 検索行動(無意識の本音) |
| 分析単位 | キーワード(点) | 検索パス(経路・文脈) |
| ペルソナ | 属性・デモグラフィック | ジョブ(解決したい課題) |
| 海外調査 | 現地代理店・高コスト | ツール内で完結・低コスト |
| AIの信頼性 | 誤情報の懸念(要検証) | 事実データに基づく(根拠あり) |
日本語・英語・韓国語の消費者行動データを蓄積し、ChatGPTをはじめとする生成AIと連携することで、専門的なデータ分析の知識を持たない担当者でも、ここまで解説してきた行動データ分析を実践できます。
生成AIとの連携で最大の課題となる出力内容の正確性については、実際の消費者行動データのみをデータソースとして接続することで解決しています。「言語の壁」もなく、日本語のプロンプトでアメリカ消費者の行動データを直接分析できます。
まず、自社が関心を持つ製品カテゴリーや市場において、消費者の行動データがどのような課題を示しているかを確認してみてください。
ListeningMindの実際の画面と分析デモを確認したい方へ 消費者の検索パスをどのように可視化し、ジョブ指向ペルソナをどう定義するか、デモンストレーションでご確認いただけます。
よくある質問(FAQ)
Q1. マーケティングリサーチとマーケットリサーチ(市場調査)の違いは何ですか?
マーケットリサーチ(市場調査)は、市場規模・成長率・競合動向など「市場そのもの」を対象とした調査です。一方、マーケティングリサーチは市場調査を含む広い概念で、製品・価格・流通・プロモーションといったマーケティング活動全体に関する調査を指します。
つまり、マーケットリサーチはマーケティングリサーチの一部という位置づけです。実務上は両者を同じ意味で使うケースもありますが、厳密には対象範囲が異なります。
Q2. マーケティングリサーチの主な手法には何がありますか?
大きく定量調査・定性調査・行動データ分析の3つに分類できます。
定量調査の代表例はネットリサーチ・CLT(会場調査)・HUT(ホームユーステスト)・SNS調査など。定性調査の代表例はデプスインタビュー・FGI(フォーカスグループインタビュー)・覆面調査・観察法など。行動データ分析は検索行動や購買履歴などを分析する比較的新しいアプローチです。目的に応じて単独または組み合わせて使います。
Q3. マーケティングリサーチを自社で行うことはできますか?
可能です。まずは①目的と仮説の整理、②調査票の設計、③無料・低価格のオンラインアンケートツールの活用、④デスクリサーチ(公開統計データの調査)から始めるのがおすすめです。
公開されている統計データ(e-Stat・業界団体レポートなど)だけでも市場の全体像は把握できます。本格的な調査が必要になった段階で、専門の調査会社や行動データ分析ツールの導入を検討するアプローチが現実的です。
自社で始める際のキーワード選定の考え方については キーワード選定 も参考にしてください。
Q4. マーケティングリサーチの費用相場はどのくらいですか?
対応方法によって大きく異なります。自社内製で無料ツールを活用すれば実質コストはほぼゼロから始められます。
調査会社に依頼する場合、簡易なネットリサーチで数十万円〜、グループインタビューで1グループ50〜100万円程度、本格的な定量+定性の組み合わせ調査では数百万円規模になることもあります。重要なのは「費用」よりも「目的に合った手法と精度を選べているか」です。
Q5. マーケティングリサーチ会社はどう選べばよいですか?
「目的への適合性」「保有パネル・データの種類」「分析・レポーティング体制」の3つの視点で選定します。
定量調査が中心の会社、定性調査に強い会社、行動データ分析を専門とするツールなど、各社の得意領域は異なります。自社の調査目的に合った得意領域を持つ会社を選ぶことで、コストパフォーマンスが大きく変わります。複数社から見積もりを取り、提案内容を比較することをおすすめします。
Q6. 定量調査と定性調査はどちらを選ぶべきですか?
目的によって使い分けます。傾向の規模感を数値で把握したいときは定量調査、消費者の心理や行動の理由を深く理解したいときは定性調査が適しています。
実務上は、定性調査で仮説を立て、定量調査で検証する、という組み合わせが最も精度の高いアプローチです。予算とスケジュールが許せば両方を組み合わせるのが理想です。
Q7. 行動データ分析は従来の調査と何が違うのですか?
最大の違いは「消費者に質問しない」点です。アンケートやインタビューは消費者の発話に依存しますが、行動データ分析は消費者が能動的に起こした行動の記録を分析します。
そのため、消費者自身も言語化できていない潜在ニーズや、調査設計者が想定していなかった課題まで把握できる可能性があります。検索行動データを活用したアプローチでは、消費者の意思決定プロセス全体を経路として捉えられる点が、従来手法との本質的な違いです。
まとめ
この記事では、マーケティングリサーチについて以下の内容を解説しました。
- マーケティングリサーチとは、消費者の意図・行動・課題を把握し、マーケティング施策の意思決定を支援する体系的なプロセスである
- 目的は「顧客理解」「リスク低減」「競争優位」「施策最適化」の4つに整理できる
- 手法は定量調査・定性調査・行動データ分析の3種類があり、目的に応じて使い分ける
- 進め方は「目的設定→仮説構築→調査企画→実査→集計・分析→施策接続」の6ステップ
- 従来手法には「聞けることしか聞けない」という構造的な限界があり、行動データ分析がそれを補完する
- 行動データを活用することで、リサーチは「報告書を作って終わる」ものから「施策の意思決定基盤」へと進化する
マーケティングリサーチは、概念を理解するだけでなく、実際に消費者の行動データに触れることで理解が深まります。
本記事の情報は2026年時点のものです。
執筆者紹介
株式会社 アセントネットワークス ソリューション事業部 シニアアナリスト 吉岡直樹
デジタル系プロダクションの設立の後、NEC(ヒアラブルデバイスUX設計)、JTB(輸出促進支援事業次席顧問)、TBS(Screenless Media Lab. テクニカルフェロー)、NHK(放送100年プロジェクト/データ分析)などへの参加を経て現職。
日本ディープラーニング協会 認定エンジニア (JDLA for ENGINEER 2022#2)、(米)PMI認定 プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル (PMP)、経営学MQT 上級 (NOMA)、データサイエンティスト協会 会員 (個人)、日本マネジメント学会 会員 (個人)。
著書:「AIアシスタントのコア・コンセプト/人工知能時代の意思決定プロセスデザイン(BNN:2017)」、「SENSE インターネットの世界は「感覚」に働きかける(日経BP:2022)」
※ NHK 放送100年「メディアが私たちをつくってきた!?」データ分析担当








