1. 顧客ジャーニーとは?
1-1. 定義と全体像
顧客ジャーニー(Customer Journey)とは、消費者が「何かが欲しい」「課題を解決したい」と思い立った瞬間から、関連情報を集め、商品やサービスを比較・検討し、最終的に購入や契約に至るまでの一連の行動・心理のプロセスを指します。
このプロセスには、検索、広告接触、SNS、口コミ、レビュー、実店舗での体験など、非常に多様な接点(タッチポイント)が存在します。そしてこの一連の流れは、一人ひとりの行動でありながらも、類似したニーズを持つ消費者が多く存在することで、市場全体の構造的動向をも映し出しています。
たとえば、「子ども用の自転車を探している母親」「転職を考える20代」「肌荒れに悩む男性」など、それぞれ異なる文脈を持った人々が、ある共通の目的に向かって行動しています。その“旅路”を可視化・体系化するのが「顧客ジャーニー」という考え方です。
1-2. カスタマージャーニーマップ(CJM)とは
このジャーニーを視覚的に整理し、フェーズごとにどのような行動や感情、接点があるのかをまとめたものが「カスタマージャーニーマップ(CJM)」です。
CJMは、マーケティング戦略立案の出発点として非常に有効です。たとえば、広告のタイミング、Webコンテンツの配置、チャネルの最適化、カスタマーサポートの配置など、あらゆる施策の優先順位と目的を明確にする土台となります。
2. 検索データが示す「インテント(意図)」の可視化
2-1. 検索キーワードは“無言のアンケート”
現代の消費者は、何かを知りたい、比べたい、決めたいと思った瞬間に、スマートフォンで検索を行います。これは日常の中で自然に起こる行動であり、そこには明確な「意図(インテント)」が潜んでいます。

たとえば、
- 「電動自転車 子ども 2人乗り」→ 安全性や耐荷重が気になる親
- 「30代男性 化粧水 敏感肌」→ 肌荒れに悩み、適切な製品を探す人
- 「引っ越し いつ安い」→ タイミングとコストに悩む生活者
こうした検索ワードには、消費者の具体的な“今の困りごと”や“判断基準”が凝縮されています。マーケターにとって、これらはまさに「無言のアンケート」ともいえるデータです。
2-2. インテントを通じた顧客理解の深化
検索データをもとにしたインサイトは、以下のように消費者の購買段階や気持ちを詳細に把握するために活用できます。
- 初期探索段階か、購入直前かの把握
例:「◯◯とは」や「おすすめ ◯◯」は初期段階、「比較」「口コミ」「安く買う方法」は後半ステージに多く出現。 - 重視ポイントの抽出
例:「コスパ」「静音」「軽量」「ランキング」などのワードが添えられていれば、その商品の選定基準が明確になります。 - 不安や不満の可視化
例:「◯◯ 壊れやすい」「◯◯ トラブル多い」といったワードは、購入に対する“心理的障壁”の存在を示しています。
このように検索は、消費者の行動だけでなく、彼らの「思考の変化」や「心の動き」を読み解くための重要な手がかりになります。
3. CDJとファネルモデルの違い
3-1. ファネルモデルとは何か
「ファネル」とは“漏斗”を意味し、消費者が最初に商品を認知し、興味を持ち、比較・検討を行い、最終的に購入するというプロセスを一方向で整理した古典的なモデルです。これは主にWebマーケティングや広告運用において使われ、CV(コンバージョン)最大化を目的としています。
しかし、実際の消費者行動は、必ずしも一直線には進みません。途中で離脱したり、別のブランドに乗り換えたり、友人の口コミで再検討に戻ったりと、非線形で複雑な動きをします。
3-2. CDJ(Consumer Decision Journey)とは

CDJは、マッキンゼーが提唱した概念で、消費者行動を“循環型”で捉えるフレームワークです。購入後の体験や満足度、再購入、ブランドロイヤルティの醸成まで含まれたモデルであり、企業と顧客の長期的な関係性を重視します。
たとえば、ある製品を購入し満足した顧客が、SNSでそれをシェアした結果、新たな顧客のジャーニーが始まる──このようなループ構造がCDJの基本的な考え方です。
3-3. 両者の使い分けと連携
ファネルは「短期成果」を最大化するために有効であり、CDJは「ブランド体験」や「関係性構築」に強みを持ちます。
どちらか一方だけでは不十分で、たとえばファネルで刈り取ったリードに対して、CDJ型の体験設計を通じてファン化していく、という流れが理想的です。
4. 検索データを活用したジャーニー分析の実例
4-1. 検索データが可能にする多角的な分析
検索という行動は、表面的には単なる情報取得の手段に見えるかもしれません。しかし、その中には「誰が」「いつ」「どんな目的で」「どのような言葉を使って」検索したのか、という膨大な文脈と背景が含まれています。
これらを体系的に分析することで、企業は消費者の認知・比較・購入に至るまでのあらゆる行動のパターンを、客観的かつ高精度に捉えることができます。具体的には、次のような分析が可能になります。
4-2. 代表的な分析パターン

- ① 購買要因の抽出
例:「7人乗り SUV」や「小型 EV 200万円以下」などの検索は、広さや価格といった重視ポイントを明示しています。これらの検索から、購買の際にどの要素が意思決定に影響を与えているかを定量的に把握できます。 - ② 関心トピックの特定と優先順位付け
どのトピックに対して検索数が多いかを時系列で分析することで、ユーザーの関心度合いや関心の変化、トレンドの兆しを読み取ることができます。
例:「肌に優しい日焼け止め」が急増していれば、敏感肌や成分に関心が集まっていることを示します。 - ③ 非補助認知度(Top of Mind)測定
ブランド名を検索する人の数は、広告では測れない「自然な認知の強さ」を示します。誰に頼まれたわけでもなく、思い出して検索したブランドが、その人の“第一想起ブランド(Top of Mind)”です。 - ④ 競合比較と検索シェア分析
「A社 vs B社」のような比較検索は、ユーザーがすでに購入候補を絞っていることを示します。このタイミングでの検索シェアは、いわば“最後の一押し”に影響を与える重要なデータです。 - ⑤ 不満・課題の早期検知
「冷蔵庫 うるさい」「エアコン 水漏れ」などのネガティブキーワードは、ユーザーが既に製品を使って抱えている不満を示します。これらを拾い上げることで、商品改良やカスタマーサポート改善につなげられます。 - ⑥ 影響チャネルの特定
検索結果に頻繁に表示されるWebメディア、比較サイト、YouTube動画などは、ユーザーの意思決定に大きな影響を与えています。企業の公式サイト以外で「誰が語っているか」を可視化することが重要です。 - ⑦ 市場セグメント別の関心度・規模推定
たとえば「学習机 中学生」「学習机 幼児」のように検索対象が明確に異なる場合、それぞれのセグメントにおける関心度や市場規模を相対的に見積もることができます。
4-3. 検索データによる可視化のメリット
上記のような分析を通じて得られる最大のメリットは、「感覚」に頼らず、「実際の行動」に基づいたマーケティング判断ができることです。
従来の定性調査では見落とされがちなニーズや、マイクロトレンドの兆しを、日々の検索行動という“リアルタイムの生活データ”から抽出できるため、広告戦略や商品開発、UX改善に至るまで多方面に応用できます。
5. 顧客ジャーニーを活用するための4つの視点
5-1. 個人ではなく「集合としての行動」として捉える
検索データは、ひとりのユーザーの個人的な行動ではなく、似たようなニーズや悩みを持つ多くの生活者による“集合的な行動の流れ”です。マーケティングにおいては、この「集合意識」に注目することで、市場全体の構造変化や流行の源流を捉えることができます。
5-2. キーワードを「インテント」で分類する

表面的な単語の一致ではなく、「その言葉を検索した背景にある目的や状況」で分類することが重要です。
たとえば、「お弁当 簡単」「お弁当 作り置き」「お弁当 高校生」といったキーワード群は、一見バラバラに見えても、"毎日の準備を効率化したい"という共通の意図があるかもしれません。
このように分類すれば、トピック単位でのコンテンツ戦略や広告設計がしやすくなります。
5-3. 中長期視点での戦略設計に役立てる
検索データを短期的な広告運用だけに使うのはもったいないことです。
ブランドのポジショニング戦略、ペルソナ設計、プロダクト戦略の方向性、チャネル別のKPI設計など、より長期的で構造的なマーケティングに活かすことができます。
5-4. 高精度な分析には専用ツールの活用が不可欠
検索データを有効に分析するためには、ListeningMindのように大量のクエリを多角的に分類・集計・可視化できる専用ツールが必須です。
SEMRush、Ahrefs、Keyword Planner、Search Consoleなども目的に応じて使い分けることで、より解像度の高い分析が可能になります。
6. まとめ:検索から始まる、顧客との共創
検索データは、単なる「調べものの記録」ではありません。それは、生活者の意図と感情、悩みと期待、選択の理由が詰まった“未来のヒント”そのものです。
企業がこのデータを通して「本当のニーズ」に耳を傾け、ジャーニーの各段階で適切なコンテンツや体験を届けることができれば、広告費の最適化やCV向上を超えた、「ブランドへの共感」や「ファン化」につなげることが可能になります。
そして何より、マーケティングとは「伝えること」ではなく、「聴くこと」から始まるべき時代に突入しています。
検索という“声なき声”を丁寧に読み解くことこそが、これからのマーケティングの本質であり、競争優位を築く最大の鍵となるのです。