マーケティング、商品企画、ソフトウェアデザインの分野で広く活用されてきたペルソナですが、その有用性については賛否が分かれています。近年、Jobs To Be Done(JTBD/ジョブ理論)フレームワークへの関心が高まり、ターゲット顧客を正確に定義・分析する手法としてこの2つが比較されることが増えています。
しかし、ペルソナとJTBDは対立する概念ではなく、それぞれの長所と短所を理解し、適切に組み合わせることで、より効果的なマーケティング戦略を構築できます。
本記事ではペルソナとJTBDの特徴について紹介し、2つを組み合わせた統合戦略であるニューペルソナについてもご紹介します。
ペルソナとは?
特定のターゲットユーザーを架空の人物として具体的に描写する手法です。マーケティングにおいて、顧客理解を深めるために広く活用されています。
この概念は広告やマーケティング分野が発祥だと思われることがよくありますが、1988年にマイクロソフトのアラン・クーパーが、ユーザビリティの向上を目的として提唱したものです。
全てのフレームワーク同様、ペルソナも使い方次第です。
上手く活用できない企業では、ユーザーの欲求、行動特性、脈絡よりは人口統計学的な要因にばかり焦点をあてたペルソナを作ります。上手く活用している企業ではリサーチ会社を雇い、対象のマーケットとユーザーに対するフィールド調査を行い、しっかり洞察されたペルソナを作ります。しかし、フィールド調査の結果が出るまでに時間がかかるため、ほとんどの企業の商品開発チームはリサーチの結果を待てずに開発を進めてしまい、商品やデザインに反映されないということもよくあるのではないでしょうか。
ペルソナフレームワークの5つの課題
ペルソナマーケティングが古いと言われたり、ペルソナを活用した顧客理解には限界があると言われる理由は下記の通りです。
1.過度な単純化
ペルソナはユーザーの複雑な行動やニーズを過度に単純化してしまうため、実際のユーザーの多様な行動パターンや状況を十分に反映できません。
2.不要なデータの提供
ペルソナには、マーケティングや商品開発に直接関係のないデータが含まれることが多く、意思決定の際にノイズとなる可能性があります。
3.抽象的すぎるユーザー行動の分析
ユーザーの実際の行動やニーズが抽象的に表現されるため、具体的な施策に繋げるのが難しいです。
4.組織内で活用されにくい
ペルソナが実際のユーザーの行動やニーズを正確に反映できていない場合、組織内でも受け入れられず、ペルソナを作っても活用されない場合があります。
5.一貫性の欠如
部署ごとに異なるペルソナが作成されることで、組織全体のマーケティング戦略や商品開発の方向性に統一性がなくなる可能性があります。
このような課題があるため、ペルソナ単独では十分な市場理解が得られないことがあります。
ジョブ理論 / Jobs To Be Done(JTBD)とは?
ジョブ理論とは、クレイトン・クリステンセンによって提唱され、「ユーザーが商品を“雇用”する理由」を分析する手法です。Jobs To Be DoneやJTBDとも言います。
皆さんも“人々が欲しいのは1/4インチ・ドリルではない。彼らは1/4インチの穴が欲しいのだ”という代表的なスローガンを耳にしたことがあるのではないでしょうか?
Jobs To Be Doneの事例

クリステンセンの有名なJTBDの事例の1つはアメリカ人が朝、ドライブスルーでミルクシェイクを買う理由を研究したものです。
ユーザーがミルクシェイクを”雇用”する理由は単なる嗜好ではなく「通勤中に手軽にお腹を満たし、退屈を防ぐ」という“仕事”を達成するための選択であると判明しました。
家を出るのが遅れて、車の中で素早く朝ご飯を食べる方法を探しており、通勤中に口が寂しくならないものである必要があった状況で、ミルクシェイクが採用されたのでした。
Jobs To Be Doneの特徴
1.ユーザーの意図にフォーカス
JTBDフレームワークは、「誰が買うのか(ユーザーが誰なのか)」ではなく「なぜ買うのか(ユーザーが何を解決したいのか)」に焦点を当てます。そのため、より深い顧客理解が可能になり事業改善やイノベーションの創出がしやすくなります。
例えば、同じ20代の男性であっても、スマートフォンの購入理由が最新技術を試したい人と、仕事の効率を上げたい人では目的が異なるため、アプローチ方法も変える必要があります。
2.問題解決型のアプローチ
顧客が直面する具体的な課題を特定し、その解決策として商品・サービスを提供できます。
食品宅配サービスは、忙しい日の夕食を手軽に準備したいというニーズに応えたサービスとなります。
3.実際の購買行動に基づく分析
顧客がどのような状況で商品を選ぶのかを深掘りし、購買決定プロセスを理解することができます。

ペルソナとJTBDの統合戦略とニューペルソナ
このように2つのフレームワークはどちらも顧客を理解し、顧客にベストな解決策を提案するために作られました。
しかし、JTBDの場合は顧客が実際に必要としていることに重点を置いているということからマーケティングでの活用度が高まり、ペルソナの場合、顧客が誰なのかと、顧客の特性や好みを過剰に詳しく説明しようとしたため活用度が落ちたと言えます。
JTBDとペルソナを上手く組み合わせることで、単にユーザーの特性を表すだけでなく、ユーザーの実際の‘ジョブ(用事)’や目標を反映することができるようになり、より実用的な顧客像である“ニューペルソナ”を作成することができます。

ニューペルソナは、商品とサービスを利用するのがどんな人で、その人たちが解決したい課題や目標が何なのかという情報を組織内で共有することができます。
元々JTBDフレームワークは消費者の課題と最終的な目標を達成するために、どんな選択肢が隠れているのかを見つけるのに特化しているため、既存のペルソナが持つ弱みをJTBDで補うという形です。
リスニングマインドを使ったニューペルソナの作成
リスニングマインドはユーザーの検索ワードやSERP画面を分析し、ユーザーの意図や悩みをより細かく把握することができます。リスニングマインドを使うことで、JTBDの解像度を高めることができます。
ユーザーが実際にどのような検索ワードでどのような情報を探しているのか、そしてその結果からどんな選択をするのかまでを把握することができるニューペルソナを使って、より効果的なマーケティング戦略を立てることができます。
ニューペルソナの事例
ここで例を1つお見せしたいと思います。
“メンズ 日焼け止めに”の前後2段階で検索されている検索ワードを収集し、目的ごとにグループ化したところ、【トラック運転手】というグループが見つかりました。
更に【トラック運転手】のグループ内の検索ワードを見てみると“トラック運転手 紫外線” や “車 日焼け対策 運転席”“トラック運転手 光老化”のような検索ワードがありました。日焼けによるトラックドライバーの顔の老化や肌の乾燥についてや、運転時の日焼け対策に興味があることが見受けられます。

パスファインダーで気になるキーワードの検索経路をたどると、前後に検索されているキーワードも確認することができます。

このようにリスニングマインドを活用するとJTBDとペルソナを統合的に使う道が開かれます。
リスニングマインドはユーザーが悩んでいる課題を先に確認し、そこからユーザーのデモグラフィックな特性を確認する方法で情報を提供します。これにより、ユーザーの問題と課題の把握だけでなく、実際にユーザーが経験している背景について理解を深めることができるようになります。
このように集めたユーザーの課題と背景に対するインサイトは商品開発やマーケティング戦略に役立ちます。
まとめ
JTBDとペルソナは独自の強みを持っています。
ペルソナはユーザーの特性や行動を具体的に理解することに重要な道具です。
JTBDは商品やサービスを利用する実際の目的を深掘りし、把握することに重点を置いたアプローチ方法です。
この2つのフレームワークを併せた“ニューペルソナ”を業務に取り入れることで、企業はユーザーのニーズと行動をより正確に把握し、業務に反映できるようになります。
“ニューペルソナ”のような統合的なユーザー理解のフレームワークは、これから顧客中心のビジネス戦略を立て、実行する上で必要不可欠です。企業が顧客を素早く理解することで、顧客が求めている商品を他社よりも早く開発し、顧客満足度を継続的に向上させることができます。
本記事の日焼け止めの事例は、リスニングマインドを使用して検索データを基に抽出されました。
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是非みなさんもニューペルソナを見つけてみてください!